インタビュー 株式会社ニチフ 髙井本部長

2020年03月09日

インタビュー, 特集

 今回は圧着端子の製造販売で圧倒的なシェアを誇る株式会社ニチフ(以下、ニチフ)の髙井本部長にお話を伺いました。ニチフといえば圧着端子の製造メーカーとして知らない人はいませんね。また、国産圧着端子のパイオニアとして超有名な日本企業です。普段何気なく使用している圧着端子。どのようなお話が伺えるのか楽しみですね。

――ニチフの設立や沿革を教えてください。

 創業は1941年で大阪市大淀区本庄に日冨ターミナル製作所を設立し、銅管端子の製造を始めました。銅管端子とは圧着端子と違い半田付けで電線と端子を接合する端子です。1951年に日冨電業株式会社に社名変更し、1955年に圧着端子と圧着スリーブを製造します。当時、圧着端子はAMP(現TE)の海外製品しかなかったのですが、国産の圧着端子はニチフが初めて製造販売しました。圧着端子は金属板を金型で抜き、丸めて、銀ロウ付けして製造します。当時、圧着しても端子が割れたり外れたりしないように製造するのは難しい技術でした。ニチフの圧着端子はJISやUL、CSAなど主要な規格を取得していきます。

 1974年に株式会社ネカ電商を設立し商社を立ち上げます。1979年には日冨電業株式会社を株式会社ニチフ端子工業に社名変更して製造担当の会社とし、株式会社ネカ電商を株式会社ニチフに社名変更して販売担当の会社として製造販売の強化を図るようになります。現在でも法人格は製造会社のニチフ端子工業と販売会社の株式会社ニチフと分かれていますが、内部は一丸となり同じ会社といったように運営されています。ニチフ端子工業のロゴはNTMと書かれていますがこれは英訳のNichifu Terminal manufactureの頭文字をとっています。

 ニチフの端子はまず建設業界の電設資材部門に広く使われるようになります。建築関係ではキュービクル、制御盤、変圧器、空調、照明など様々なケーブル端末に圧着端子が使用されます。ニチフの端子は多くの商社に豊富な在庫を保有してもらっていて、且つ生産供給体制も整っているので入手性が良いのが特徴です。電設工事には即日にでも物が欲しいというニーズが高く、ニチフの入手性は評価されていきました。建設業界における圧着端子の国内シェアは長年にわたり1位で、端子といえばニチフというブランド力も培ってきました。

 また、ニチフは絶縁被覆付圧着端子のイージーエントリースタイルや絶縁被覆付連鎖形圧着端子(ICT:Insulation Chain Terminal)など作業の効率化に役立つ製品を開発し、産業機械や工作機械、制御機器、事務機器などのメーカーにも広く使用されるようになっていきます。作業効率化に関する製品開発には特に注力してきました。

 海外へはアメリカ、ヨーロッパ、アジアに拠点を置いて進出していきました。現在の海外拠点はアメリカとタイで、ヨーロッパや中国などの主要マーケットは国内の海外営業部がカバーしています。

 1990年代になるとニチフの端子は各種ホームセンターでも販売されるようになります。ホームセンターは土日も開店しているので、電設工事で急に材料が必要になったときなどに重宝されるようになってきました。DIYブームなどもありホームセンターでの販売数は伸びています。2000年代に入るとミスミなど大手の通販やWEBサイトからのネット販売もされるようになります。

――ニチフの強みを教えてください。

 まず挙げられるのが既に述べてきた入手性です。同業他社と比較して短納期、即納など納期対応に強みがあります。その理由としてニチフが製品、半製品の在庫を適度に保有していること、また各商社が在庫を保有していることが挙げられます。ニチフの製品は市場が安定していて、ロングラン製品が多いので在庫していてもやがては売れていきます。また、場所もとるような製品ではなく、品質劣化が激しいものでもありませんので安心して在庫できるのです。大手商社にはかなりの量を在庫してもらっています。この入手性という強みがあるからこそ、ニチフの製品はホームセンターやインターネット販売を運営している企業から引き合いがあったのです。ホームセンターやインターネットで販売されることによってニチフの端子の入手性は更に高くなってきています。

 もう一つの強みは開発力です。創業当時から国産初の圧着端子を製造してきたように、同業とは違う一歩先の開発をしてゆくのがニチフの方針であり社風です。開発の例としてTME形の絶縁被覆付圧着端子が挙げられます。この端子の絶縁被覆内側には電線挿入のガイドが設けてあり、スムーズな電線挿入が可能です。また芯線の位置も安定し確実な圧着が可能です。このような絶縁被覆付圧着端子はイージーエントリースタイルといって、作業性と品質の両面を向上させることができます。一般的に絶縁被覆付圧着端子は塩化ビニルパイプをカットして、樹脂を圧入する方法で製造されています。TME形の絶縁被覆付圧着端子の被覆部分は他社の従来製法とは違う成型品で製造されています。

 また、絶縁被覆付連鎖形圧着端子(ICT:Insulation Chain Terminal)もニチフのオリジナル製法で作られています。圧着端子を連続形とすることで、圧着の作業効率は3~4倍ほど早くなります。絶縁被覆付の圧着端子は裸端子よりも製造が難しく、ニチフはこの分野で世界的にも技術的に優位で、絶縁被覆付市場はニチフの占有率は高いです。

 これらの技術開発は顧客のニーズに対応して開発されてきました。ニチフの開発は顧客とコミュニケーションを取っている営業部門から得られる、顧客の声をヒントに進められています。時には顧客ニーズに対応してカスタマイズ製品も製造することもあります。ニチフは金型から自社開発で製造しますので、柔軟な対応をすることができるのです。

 こんな開発話もあります。ニチフの端子は大きいサイズを除いてプラスチックケースに入っています。これは中を見やすくすることで、間違えずに端子を選ぶことができるように開発しました。実はこれはホームセンターを見に行った先代の社長が考案したものなのです。当時、ホームセンターに陳列されていたニチフの端子は紙包装で中が見えない状態で、端子の紙包装は中を見るために破られることもあったようです。一方、他に陳列されているネジや釘はプラスチックケースのものがあり、ここにヒントを得たのです。今では大きな端子を除き、ほとんどの端子はプラスチックケース(エコマーク)に包装されて、同業他社と差別化されています。

 近年は環境配慮形絶縁被覆付圧着端子の開発に注力してきました。従来使用されてきた塩化ビニルはRoHS10をカバーしているものの、燃焼すると塩素や重金属などの有害ガスを発生します。代替素材として同業他社はナイロンを推奨しています。ナイロンは環境配慮されていますが、冬は乾燥し硬くなり割れやすく、夏は水分を含んで樹脂が伸びてしまうといった問題点があります。ニチフはこの問題点と環境配慮との両方をクリアするために、他社に先駆けてポリカーボネイトを代替素材として使用しています。ニチフのポリカーボネイトは定格電圧が従来の300Vから600Vとなり絶縁性も耐熱性も向上しています。環境対応推進のため塩化ビニルとナイロン製の端子は受注生産に切り替えました。同業界でここまで環境対応に取り組んでいる企業はないと思います。特にヨーロッパへの輸出品は環境対応が厳しく、今後もこういった傾向は世界的に続くと予測されます。

 また、近年は電設市場において人手不足を背景に働き方改革の推進もあり、建設現場での省力化対策は待ったなしとなっています。そこで当社は電気工事の屋内配線の省配線システムとして、新たにプラグジョイントコネクタ・ミニプラグジョイントコネクタのシリーズを開発し市場に展開しています。今まではビル、マンション、住宅等の現場で電気工事士が電気配線の作業を行っていましたが、これにより現場のワイヤーハーネス化が可能となり作業の省力化、人手不足を解消することができます。

 今後もこうした時代の変化を敏感にとらえ開発を進めていきます。

――髙井本部長の経歴を教えてください。

 私は北九州の出身で昭和29年生まれです。京都の大学へ行き、関西で就職活動をしていました。就職難の時代でしたが、ご縁があって1978年に日冨電業に入社します。入社してからは東京配属となり営業を担当しました。当時の東京営業所は建設業界関連の電材営業部門しか無く、電材のルートセールスをしていました。電話で注文を受け、商品を出し、出荷準備をして、納品に行くという一連の作業を自分でおこなっていました。環状七号線地区を主に担当し、一日に5~10社ほど周っていましたね。顧客先では資材や購買の担当者と打合せをしたり、顧客の棚に在庫を補充して整理したり、先輩にならって仕事をしていました。

 入社2年となり商材も覚えて慣れてきたころ、新規開拓部門としてセットメーカーやワイヤーハーネスメーカーを開拓する部門が設置されることとなりました。私は自ら手を挙げて、東京営業所の新規開拓部門は私を含めて3名でスタートしました。既に紹介しましたイージーエントリースタイルや絶縁被覆付連鎖形圧着端子が開発され、その売り込みに圧着機を持って営業に周りました。当時はメールも無い時代です。顧客開拓リストを見て一日に何十件も電話をかけました。電話でアポイントメントを取るのは大変でしたよ。技術的に優位な商材であったので設計や製造技術部門などへ積極的に接触をはかり、1日に1~2件ほど周っていきました。車も一人一台あったわけではなく、営業先の工場は駅から遠いことが多いので夏は汗だくになって営業しました。朝は早く、夜は遅く、かれこれ20年近く新規開拓を担当することとなります。紆余曲折しながら売上は何とか順調に伸び、大手重電メーカーをはじめ、産業機械、工作機械、制御機器、事務機器メーカーや多くのワイヤーハーネスメーカーにニチフ製品が採用されるようになりました。新規開拓営業の経歴が長いので、現ユーザーの顧客の多くは自分が担当させて頂いた企業様です。

 38歳の時には、こうした直需部門の営業所である関東営業所が新設されその所長となりました。関東営業所は現在、東部営業本部に一本化されています。50代初頭に部長となり、53歳の時に取締役営業本部長となります。その後、2年ほど敦賀工場の工場長として単身赴任しました。

 敦賀工場勤務してからは納期回答システムの見える化を進めました。製造から営業への納期回答は電話やFAXで行っていたのですが、各営業所と敦賀工場との納期回答システムを構築しパソコンで商品納期や在庫状況・生産計画など社内で共有できるようにしました。営業を担当していた経験から、顧客にもっとスムーズな納期の回答が出来ないかと思っていました。顧客の信頼を勝ち取るにはスピーディーな営業活動をいかにできるかが重要です。特に顧客が急いでいるときは、お待たせしないように迅速な対応をすべきです。こうした改善で顧客への対応スピードは向上し、顧客満足の向上に繋がったと思います。現場を理解するために、現場に入って一緒に作業をしたり、外注先・内職への納入引取ったりもしました。納期回答システム以外にも各種業務は昔に比べてかなりシステム化されてきています。短い期間でしたが敦賀工場での製造経験を終え、再び東部営業本部に戻り現在に至ります。

――営業のコツや大切にしている仕事の心得を教えてください。

 営業で大切なのはまずスピーディーな対応です。顧客の信頼を勝ち取るための最も基本的な行動と言えるでしょう。レスポンスが早いか遅いかで顧客からの評価はかなり違ってきます。次に顧客とコミュニケーションを取れることが重要です。コミュニケーションと言っても、よく喋るということではなく、相手の言葉をいかに聞けるかということです。一方的に喋るのは良くありません。聞く耳を持ち、育てていくことが大切です。そして判断能力も重要となります。例えばキーマンにいかに結び付けられるかといった判断を誤ると、商談は進まず、時にはたらい回しになってしまうこともあります。

 私は社外だけでなく社内にもスピーディーな対応をするように心掛けています。朝は早く出社して海外や工場、営業所などから送られてくるメールを全てチェックしています。日報にはコメントを返し、返事が必要そうなメールにはアドバイスを返信しています。

 それから、物事に対してネガティブに捉えず、まず一歩踏み出してみることが大切だと考えています。ネガティブな思考を持つ人は結構多いものです。ネガティブ思考は成功を逃してしまいます。無理なことでもまず行動してみる。ダメならダメでいいのです。踏み出してみないとわからないだろうと部下にも言っています。このようにまず行動してみることは社内にせよ社外にせよ、信頼関係の構築に繋がっていくと思います。

 それから、何かお誘いがあれば断らないようにしています。食事の席では裏話や本音が聞けることもあります。プライベートな付き合いも生まれ、会っても仕事の話は一切しない関係もあります。やがてそういった関係が仕事にかえってくることもあります。

――インタビューを終えて

 何気なく使用しているニチフの端子ですが、市場に先駆けて開発されて続けてきたことや高い入手性の理由を知り、ニチフの底力を再認識しました。また、関東近隣の直需営業部門は髙井本部長が若い頃から切り開いてこられたという歴史を知り、胸が熱くなりました。これからの業界のために、先駆けた開発と安定供給をお願いします。

髙井本部長ありがとうございました。

株式会社ニチフ 東部営業本部 取締役営業本部長 髙井 俊宜

http://www.nichifu.co.jp/j/

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