インタビュー 有限会社丸昌製作所 田中社長

2020年02月07日

インタビュー, 特集

 今回はワイヤーハーネスの製造をされている有限会社丸昌製作所(以下、丸昌製作所)の田中社長にお話しを伺いました。丸昌製作所といえば、まだWEBサイトがあまり利用されていない時代からワイヤーハーネス関連情報交換サイト「ハーネスリンク」を制作されたことで業界では有名ですね。ハーネスリンクの立ち上げや変遷など興味深いお話しを伺うことができそうです。

――丸昌製作所の設立経緯と田中社長の経歴を教えてください

 丸昌製作所は私の父である田中久二雄が立ち上げた会社です。もともとは農家だったのですが、1970年頃に黒田電気株式会社がワイヤーハーネスの加工先を募集しており、家内工業といった感じで仕事をはじめ創業しました。それから十数年くらいは取引先は黒田電気1社のみという形のまま、規模を拡大し丸昌製作所を1979年に設立します。先代の話によると時代的に仕事の量が多く価格は安価であったものの、ワイヤーハーネス業は製造に注力してコツコツやればやっただけ儲かるといった時代だったそうです。会社がある大阪市東淀川区は昔は田んぼや畑でしたが今ではすっかり住宅街になりました。現在の工場がある場所ももとは田んぼでした。

 私は会社があるこの地で生まれ育ちました。学校を出てから丸昌製作所に就職し、製造部門の一員として作業を中心に働きました。当時、電線切断機の主流だったリンク式AWSの機械を扱い、ジイゲル線(ガラス線)も2本切りしていました。芯線切れやガラス編組のヒゲを出さないようにブレードを砥石で何度も研磨したり、刃の中心に入るよう冶具を作成したりして苦労しましたが、それも楽しかったです。作業の効率化を考え、いかに速く、正確なものを作るかといった事を四六時中考えていました。効率化のために機械を改造したりツールを自作したりもして、うまくいくと達成感がありました。仕事は少しずつ増え、製造、検査、出荷、納期管理と製造に関すること全般が仕事となっていきました。

 ところが1990年代に入ると取引先の海外シフトが進み、気がつくと年々売上が減少してしまいました。待っているだけでは受注はきませんし、以前のように生産効率を考えて日々過ごしている場合では無くなってきました。このような状況から何とか生き残るすべを模索し続けました。その結果、ホームページの自作やハーネスリンクなどのサイトを立ち上げにいきついて、インターネットを介して受注を獲得するようになります。代表取締役に就任したのは2013年で、現在に至ります。

――ホームページ制作とハーネスリンクの立ち上げの経緯を教えてください

 1990年代に入ると同業が次々と海外に進出して、海外で製作したワイヤーハーネスを日本に輸入するようになり価格競争が大変厳しくなりました。加工費以外の部品調達費でも歯が立たないケースもありましたね。弊社は長年、取引先が黒田電気1社であったため、その1社が調達を海外にシフトしていくと甚大な影響を受けてしまいます。1990年頃をピークに1998年くらいまでずっと減少します。仕事が減って暇な日が続いていました。

 このような厳しい状況を何とか打破しなければと、頭を悩ます日々が続きます。そんなさなか、異業種交流会に参加していたところホームページの作成に関して情報を得ます。当時はWindows3.1から95へと変わる頃で、同業者でホームページを作成している企業はほとんどありませんでした。同業では矢崎総業や住友電装の超大手企業とその他は数社ほどしかなかったと思います。

 ホームページからの集客に可能性を感じ、異業種交流会で知り合った方にサーバーを借りて独学でホームページ作りをはじめます。自社紹介のためのホームページを立ち上げたのは1998年です。当時のインターネット検索はYahooの分類から調べていくのが主流でしたので、アクセスを増やすためにYahoo分類の電線というジャンルに掲載依頼をして自社ホームページを掲載しました。すると北は北海道から南は沖縄まで連絡がくるようになり、新規案件の獲得に成功したのです。

 また当時は同業者や業界の関係者との交流がほとんどなかったため、業界関係会社のリンク集を作ろうと考えました。そして1999年に電線、コネクタ、ワイヤーハーネスのメーカーを中心としたリンク集であるハーネスリンクを立ち上げます。ハーネスリンクを見て掲載を応募してきた企業をリンクに載せるという形式をとり、リンク数は拡大していきました。リンク集を通して業界関係各社と交流していくにつれて、メーリングリストや掲示板も作りました。メーリングリストの登録者が100名くらいになったころはメーリングリストのやり取りが盛んになってきて、当時では恐らく初の取組みであろうと思いますがワイヤーハーネス業界の話題を5~6社でチャットで数回行いました。一部の人とは直接会ったりもしましたね。悩みを相談し合ったり、関西と関東のでは仕事内容の特色が違うので仕事を融通して紹介しあったりもしていました。

――ハーネスリンクの現状や今後について教えてください

 ハーネスリンクを立ち上げてから受注の新規問い合せが増え、業界関係各社との交流も盛んになってきたのですが、時間が経つにつれ徐々に掲示板にワイヤーハーネスとは全く関係のない迷惑投稿が増えるようになります。増える迷惑投稿の削除をし、対策として掲示板の移転も2度ほどしましたがイタチごっこ。迷惑投稿の対応が大変になり、また新規受注の増加による売上の増加によって経営も忙しくなってきて、あまりハーネスリンクに時間をかけることができなくなってきてしまいました。参加者も300名を超え、参加者の姿が見え辛くなり、濃い内容の話題を持ち出し辛い雰囲気が出てきました。徐々に話題が少なくなり。2019年の年末にはメーリングリストもサービスが打ち切りとなり、無くなってしまったのです。

 ハーネスリンクの立ち上げから約20年が経ち、インターネットを取り巻く環境もだいぶ変わってきています。Google検索やSNSの投稿が主流となりホームページ検索のあり方も変わり、ハーネスリンクの情報検索ツールとしての必要性は以前よりも無くなってきていると思います。ハーネスリンクの代役となるようなサービスも出てきて時代の変遷とともに役目は終えてきているのかなとも感じています。

 今後のハーネスリンクのあり方については模索中です。今後について一緒に協力して考えてくれる方がいらっしゃいましたら是非よろしくお願いします。

――他社と比較して丸昌製作所の強みはなんですか?

 弊社の強みは柔軟性です。お客さんができなくて困っていることや、難しい案件でも何とか対応するようにしています。簡単ハーネスで現行の会社より安価にならないかというお話しはお断りしているのですが、通常の加工方法ではできない、開発的な電線やチューブ加工品の話があれば是非トライしたいと思っています。弊社でもできないかも知れませんが、挑戦することを楽しみとして、ユーザー様、産業界、社会に役に立てるハーネス加工業者を目指しています。

 加工可能な分野は広く偏っていませんので、対応できる幅が広いのも特徴です。多品種少量から中量程度まで、細物太物長物、防水物も扱い、起業初期よりパナソニック系の仕事を続けおり、管理面も鍛えられております。近隣にある同業者との繋がりもありますので、材料や設備の融通なども含め仕事を協力してこなすこともできます。

 設備的には取引関係の経緯から日圧(日本圧着端子)の純正アプリケータを多く保有していますので、日圧関係の加工は得意です。もちろん他社の標準的な設備やアプリケータも持っています。日圧のナイロンコネクタは結構な種類を取り扱っています。最近は住鉱テックのCA,CB,CE,CLや日圧(JST)のJWPF,MWP等、産機、住宅、工場や施設設備系の防水コネクタのハーネスを多く取り扱っております。 両端圧着、半田自動機からキャブタイヤ系の加工機もそろっております。

――作業効率化のための自作機械やツールはどのように作っているのですか?

 私は機械装置そのものを設計したり組み立てることはしていません。世の中にある機械を改良したり組み合わせて新しいツールを製作しているのです。新しいツールのアイデアやヒントを得るために設備系のホームページやホームセンター、100円均一など、定期的にチェックしています。そこで見た既存の機械や道具、材料、アイデアグッツの形状や使用方法が弊社の製造効率化に応用できないかと考えています。本来の使い方とは別の使い方で応用できることがあります。

 また、自社にあるワイヤーハーネス関連の設備に改良を加えて、製造効率化や新しい使い方ができないか日常的に考えています。少し機械を改造すれば従来できなかった加工ができるようになることもあります。このような工夫は弊社の強みでもある「できなくて困っていること、難しい案件への対応」をより可能にしています。

 最近は中国など海外の機械や管理方法にも注目しています。中国の機械は模倣品も多いですが、大量に作る為に効率化が出来ている良い機械も増えてきたように思います。国内メーカーの要望に応ずる為、人の手を信じず過度と思われるくらいの検査基準を達成できている業者や、対応できる設備も存在しているようで、国内メーカーも市場としては小さいかもしれませんが、国内向けに開発、販売して欲しいと思っています。

――会社を引き継ぐ立場の方へむけたアドバイスをお願いします

 2代目、3代目は目先の仕事に追われるだけでなく、常に視野を広げ考えて過ごす必要があると思います。時代の変化や競争により厳しい状態が来た時、それを打破するためには考え続けることが重要ではないでしょうか。また、仕事は好きになった方が良いので、仕事の中の楽しみを見つけてください。ワイヤーハーネスの経営としては製造に特化している会社が多いですが、商社に営業を任せていると、会社内での本当の良い点や得意な点を見えず価格勝負にさらされてしまいます。商社の営業にハーネス技術営業として付いて回ったり、自社営業したりすることで、自社の特徴やユーザーが求めているもの見えてきます。生産効率をあげることも重要ですが、多数のユーザーが求めているものに注力できる体制を作れば自然と会社は伸びると思います。

 弊社は広く浅く柔軟な対応から深堀できる製品を作れる体制づくりを目指していますが、情報化社会の中、自社の得意を延ばす特化型企業を目指すことをお勧めします。極細物、極太物、極短品、特殊電線品、高耐熱、高耐圧、海外コネクタ品など一般的なハーネス加工業者では扱いが厳しいものを得意にして特化することが生き残っていく得策だと思っています。

 同業他社との交流も重要です。他社を知ることによって自社の強みがわかりますし、自社の改善点もわかってきます。この点はハーネスリンクでの交流で非常に強く感じました。ハーネスリンクをはじめる前は人脈が無く、本当に無知だったと思います。あとは経営の基本はしっかり押さえることは重要です。

 今後、労働集約型であるワイヤーハーネス業にAIがどこまでどのように入り込むか未知数な面が大きいですが、投資、注力、裁量が一層求められます。AIの出現で産業界も想像を超える程に大きく変わると思います。現行のユーザーに依存しすぎず、常に会社としての優位性を持てる立ち位置をしっかりと見据えることが大事だと思います。

――インタビューを終えて

 ホームページがあまり普及していない時代にリンク集や掲示板を作るというのは「先見の明」としか言いようがありません。そして、それは売上低迷という窮地の状態から「考えて、考えて、考えて」生み出されたことであった事を知りました。私たちも田中社長のように常に今ある問題に対峙し、考えていかねばならないと感じました。

田中社長、ありがとうございました。

有限会社丸昌製作所 田中社長

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