50名以上の事業場における安全衛生

2019年11月27日

運営・経営

 皆さんは労働安全衛生法をご存知でしょうか。この法律は労働基準法とならんで労働災害の防止、労働者の安全と健康の確保や快適な職場環境の形成と促進を目的としています。労働安全衛生法にはいろいろな事柄が規定されていますが、事業所の人数が50名以上となると何点か対応しなければいけない義務が発生してきます。ここではその義務や規定に関して主だった3つの項目を紹介します。

1.安全管理者の選任

 ワイヤーハーネス製造業は業種の分類として「製造業などの工業的業種」にあたり50人以上労働者を使用する事業場においては、安全管理者の選任が義務付けされています。安全管理者の資格は、労働安全コンサルタントまたは、一定の産業安全の実務に従事した経験があって安全管理者選任時研修を修了した者と定められています。安全管理者選任時研修は全国各地で様々な機関により開催されています。研修の内容は全て座学で日程は1~2日程度、費用は1~2万円台と各機関によって異なっていますので最適な機関を調べて選択しましょう。

 社内で産業安全担当の人員を最低1人定め、本研修を受講します。安全管理者選任時研修の座学を全て聴講すると安全管理者選任時研修終了証が発行されます。修了証に記載されている情報をもとに、労働基準監督署へ所定の用紙を用いて選任の旨を届け出る必要があります。

2.衛生管理者の選任

 衛生管理者とは、労働衛生に関する技術的事項を管理する者として、常時50名以上の労働者を使用する事業場において選任が義務づけられている公的資格です。

 衛生管理者となるには安全衛生技術試験協会が開催している試験を受験して合格する必要があります。また、大卒や高専卒といった受験資格も定められていますのでチェックしてください。衛生管理者には第一種と第二種がありますが、ワイヤーハーネス製造業の場合は第一種衛生管理者の選任が必要となります。第一種衛生管理者の試験は第二種よりも出題範囲が広くなります。

 試験は安全衛生技術試験協会の各センターにて行われ、マークシートを用いた選択方式となります。試験内容はいくつかの科目に分かれていて、各科目40%以上かつ、全体で60%以上の得点を獲得すると合格となります。合格率は40%台です。試験時間は3時間と長いのですが、1時間程度経過した時点で早く終わっている場合は退出することができます。

 第一種衛生管理者の試験を受講するためにはまず免許試験受験申請書を提出しなければなりません。免許試験受験申請書は安全衛生技術試験協会本部、各センター又は免許試験受験申請書取扱機関で無料配布されていて、郵送にて請求することも可能です。申請書を提出すると試験日時や受験番号が記載されている学科試験受験票が送付されてきます。

 試験に合格するためには第一種衛生管理者に必要とされる知識を身に着けるために勉強をしなければなりません。お勧めの勉強方法は第一種衛生管理者試験に関するテキストを購入して要点を覚え、過去問題をたくさん解くことです。テキストは200ページを超える分厚いものが主流で、覚える範囲は広く、少なくとも1ヶ月以上は勉強期間を設けた方がよいです。また過去問題はテキストも販売されていますが、インターネット上にも過去問題を纏めたサイトがありますので検索してみましょう。過去問題と同じような傾向の問題が年々出題されているので、過去問題の勉強は重要です。資格取得にかかる費用はテキスト代や試験料、交通費などを考慮して約1万円程度となります。

 無事に試験へ合格すると免許試験合格通知書が送付されてきます。都道府県労働局、各労働基準監督署及び安全衛生技術試験協会各センターで配布されている免許申請書にこの免許試験合格通知書を添付し、免許の申請をおこなうと免許証を受け取ることができます。免許証の発行には1~2ヶ月程度の期間を要します。本免許証に記載されている情報をもとに、労働基準監督署へ所定の用紙を用いて選任の旨を届け出る必要があります。

 なお、事業場の人数が50名から200名までは衛生管理者の選任は1人必要で、201名を超えた場合は2人必要となり事業場規模が大きくなるほど選任する人数は増加します。

3.産業医の選任

 常時50名以上の労働者を使用する事業場においては1名以上の産業医を選任する必要があります。

 産業医とは事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師のことです。産業医学の実践者として産業保健の理念や労働衛生に関する専門的知識に精通し労働者の健康障害を予防するのみならず、心身の健康を保持増進することを目指した活動を遂行する任務があります。産業医には厚生労働大臣が定める産業医研修の修了者など一定の要件があります。

 産業医の仕事は、健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境と作業管理の維持管理に関すること、健康と衛生教育、健康相談、メンタルヘルスに関する事などが挙げられます。産業医の探し方ですが近隣の医療機関に連絡して対応可能か確認する、またはインターネットで検索すると紹介サービスなども利用できます。産業医との契約内容によって契約料金は変わってきますが、簡便な契約内容でも相場は月に2万円~程度であり年間で最低でも24万円程度の費用がかかります。

 産業医との契約が完了したら、その旨を労働基準監督署へ所定の用紙を用いて選任の旨を届け出る必要があります。

 以上の3つの義務はご存知でしたでしょうか。

 あるワイヤーハーネス製造企業は事業所の人数が50名を超えていましたが、この法律を知らなかったために、50名を超えたときから数年後に以下の通知を労働基準監督署から受けたとう事例があります。

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安全管理者・衛生管理者・産業医等の選任について

 盛夏の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、労働基準行政の推進につきましては、格別のご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、衛生管理者・産業医の選任が義務づけられており、一定の業種で常時50人以上の労働者を使役する事業場においては、安全管理者等の選任が義務づけられております。
 また、その事由が発生した日から14日以内に選任すること、及び遅延なく所轄労働基準監督署長に様式第3号により報告書を提出することが規定されております。
 貴事業場におきましては、下表の管理者の選任報告がされていないと思われますので、同封の様式第3号により〇月〇日までに当署あてに提出してください。
 なお、本状と行き違いで提出された場合は、恐縮ですが当署あてに連絡をお願いいたします。

○○労働基準監督署 安全衛生課

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 この企業は本通知を受けて初めて3つの義務を知ることとなり速やかに対応をしたそうです。しかし書面に書いてあるように「その事由が発生した日から14日以内に選任する」というのは事前にこの義務を知らないと準備ができるはずがありません。この記事を読まれた方は、事前に対応してくださればと思います。

 衛生管理者の資格を取得するための勉強や安全管理者選任時研修では、義務や規定が今回紹介した以外にもたくさんあることを学びます。法律を遵守して正しい企業運営を心がけましょう。