インタビュー Komax Japan 株式会社 ミゼレ社長、神崎谷担当部長
2020年02月21日
今回はワイヤーハーネス加工機で世界シェアNo.1を誇るKomaxの日本法人Komax Japan 株式会社(以下、Komax Japan)のミゼレ社長と神崎谷担当部長にお話しを伺いました。Komax Japanの元はMCM Cosmicであり、ストリッパーのパイオニアとして超有名な日本企業です。創業からの変遷なども聞いてみたいと思います。
――Komax JapanとKomaxの設立、また買収の経緯を教えてください
1992年に本部晧允(ほんぶ こうすけ)氏によって株式会社コスミックが設立されます。コスミックは高精度なワイヤーストリッパーを世界に先駆けて開発しました。創業当初は創業メンバーは2人。アパートの一室で開発をはじめたそうです。当時のストリッパーはエア駆動式が主流でしたが、コスミックのストリッパーは電動式で使い勝手が良く、1つのモーターで駆動し技術的に優位で、かつ価格競争力も高いという優れた製品でした。
Komaxはコスミックの製品優位性に着目し、コスミックと関係を構築してスイスを中心としたヨーロッパ圏やアメリカなどグローバルにコスミック製品をOEM販売していました。株式会社コスミックは2001年にエム・シー・エム株式会社に、2011年にはMCM Cosmicと社名を変更します。
Komaxは1975年にスイスで創業した会社です。創業者の名はMax Koch(マックス・コッホ)でスイス人です。Komax(コマックス)と似ていますよね?そうなんです。創業者の名前から社名がKomaxとなりました。創業の当初は日本からストリッパーや電線切断機を購入して欧米に販売していました。当時から日本の技術や製品は機能と品質が良いと評価されていたのです。
Komaxの転機は世界初のマイクロプロセッサ制御の全自動両端圧着機を開発して1982年に販売を開始したことです。この全自動両端圧着機はヨーロッパを中心に受け入れられ、BMWなど自動車業界の有名企業にも採用されています。創業当時は3人でしたが今では1900名を超える従業員を擁するグローバルな運営グループに成長し、ワイヤーハーネス関連の工作機械では世界シェアはNo.1です。
近年はより広くグローバルに製品・サービスを提供するために、世界各地のワイヤーハーネス関連企業を買収していく成長戦略を取っています。例えばテープ巻き機を製造している企業なども該当します。KomaxにとってMCM Cosmicの買収は本戦略に非常に合致していました。MCM Cosmicが保有する精度の高い卓上ストリッパーはKomaxのラインナップには無い製品でした。細い同軸線も加工できるような高精度の回転ストリップ技術は、とても追従できるようなものではありません。また、日本には矢崎総業、住友電装など自動車関連の大手企業もありマーケットとしても以前から注目していました。日本マーケットへの進出という面でみても、Komaxは日本に支店を設立したかったのです。
もともとOEM販売などを通して関係が深かったMCM CosmicとKomaxですが、MCM Cosmic創業者である本部氏の意向とKomaxの成長戦略が折り合うこととなり買収合意に至りました。2012年にKomaxがMCM Cosmicの株式を100%買収し、社名を変更してKomax Japan が誕生します。
――Komax Japanの躍進と強みを教えてください
Komax Japanになってから、新しい時代に向けたワイヤーストリッパーの新機種を開発することを戦略の主軸に添え、新製品開発に着手します。多機能性、操作性、メンテナンス性を追求しMiraシリーズを開発します。デザインも一新しました。Miraは優れたデザインと機能の両方を兼ね揃えた製品に贈られる世界で最も権威のあるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2017」を受賞しました。おそらくワイヤーハーネス関連の工作機で本賞を受賞した機械は無いと思います。Miraはお陰様で非常に好評です。中小大手問わず、新しい顧客層にも採用されています。Miraの販売数は増加し、弊社の業績は数倍に伸びて従業員数も増加しています。
弊社の強みはまずKomax グループとなったことで取り扱える製品ラインナップと販売ネットワークが世界一であることが挙げられます。日本で製造しているMiraもKomaxのグローバルネットワークにより世界中に販売されていきます。また、Komaxが世界に先駆けて開発してきた全自動圧着機は世界的に強みを持っています。
そして、何と言ってもMCM Cosmicから引き継がれ進化を続けている卓上ストリッパーとその回転ストリップ技術が弊社の強みです。日系の技術は世界のマーケットでも信頼性が非常に高いです。新機種のMiraもこの技術を礎に生まれてきました。
また、開発から販売、サービスまでの形態にも特徴があります。一般的なグローバル企業はトップダウンで開発がおこなわれ、世界中の拠点ではその製品を販売するだけという形態を取っていますが、Komaxグループの場合は開発から製造、販売、サービスまで全て一貫して各拠点で担っています。このような形態はマーケットのニーズを捉えやすく、その結果を開発や製造に生かすことができます。製品やサービスの開発には顧客ニーズを的確に把握することが非常に重要です。また、一気通貫で柔軟かつスピーディーな対応を取ることができます。
――お二人の経歴を教えてください。まずは、ミゼレ社長お願いします
私は1980年生まれでスイスの西部にあるラ・ショー・ド・フォン出身です。スイスの西側は精密加工をしている企業が多く、ラ・ショー・ド・フォンはLongines、TISSOT などの時計を作っている町です。1980年代は日本のCITIZENやSEIKOが世界的に台頭し、スイスの時計事業者は多く廃業したものです。私はローザンヌ工科大学に通い、精密ロボット、マイクロエンジニアリングなどの技術者を目指していました。
大学卒業後は技術的に進んでいる日本の企業に興味があり、光洋精工(現:ジェイテクト)に研修生として入社しました。入社前には愛知県岡崎市で日本語を勉強しました。日本に着いた日は忘れません。2005年4月8日の私の誕生日でした。岡崎という日本語も読めず、目的地にたどり着くのに大変だったのを覚えています。職場は奈良県にあり、研修開発センターで働いていました。日本で働いて数年が経ったころ、縁があって私が育ったラ・ショー・ド・フォンある企業に転職します。その企業のマレーシア工場で半導体製造設備の技術担当を7年ほど務めました。丁度、次の職場を探し求めていたころKomaxが中国で技術者応募していたので連絡をしました。残念ながら中国での採用は終えたタイミングだったのですが、運よく日本支社の勤務はどうかといオファーをもらい、2014年にKomax Japanにプロダクトマネージャーとして入社することになります。既にお伝えしたように新時代のワイヤーストリッパーを開発するという社内戦略に則り、Miraの開発に従事しました。Komaxの期待と顧客の要望のバランスを取りながら、社内の皆の力でMiraを開発していきました。例えばMiraのデザインにはKomaxの意向も入っています。Miraは無事に市場へと投入され、日本市場へのドアオープナー・エントリー機種として順調に浸透しています。2018年からは代表取締役となり今に至ります。
――次に、神崎谷担当部長の経歴を教えてください
出身は兵庫県神戸市で、1982年の生まれです。 阪大を卒業後、研究開発と生産技術などを担当する機械系エンジニアとして日東電工豊橋事業所等に勤務しました。その後、技術職ではなく営業やマーケティングをしたいと考えるようになり2011年にワイヤーハーネス関連の外資系企業に転職し、営業・マーケティングに従事します。
2016年にはKomax Japanへ転職し、プロダクトマーケティングマネージャーとしてミゼレの部下につくことになります。私の仕事は顧客やマーケットのニーズを探ることでした。市場環境や製品、顧客、競合などの情報を収集して、マーケットや競合の状況を分析します。その分析結果を開発部門にフィードバックして、市場ニーズに合った製品開発をサポートしてきました。
2018年からは営業部門も統括し、また2020年にはサービス部門も統括することになり肩書は現在「セールス&サービス担当部長」です。どうやって販売していくかのアドバイスや、Kamaxのラインナップや販売ノウハウを社内に伝える役割があります。
――他社に比べて社風が柔らかい印象を受けますが、どのように醸成されてきたのですか?
Komaxグループは温かい雰囲気があり、みんなファミリーといった社風です。MCM Cosmicの社風も家族的な雰囲気は同じで、お互いの親和性は高いと思います。責め合ったり、文句の言い合いなどがなく、問題があれば前向きに対処して解決すればいいという考え方をしています。協力的でフラットな働きやすい会社だと思いますよ。また、まじめさやお互いを考える文化は日本とスイスの共通点に感じます。
――これからの戦略を教えてください
顧客のニーズを的確に捉え、革新的な製品を開発していきます。研究開発費は競合に比較して大きなリソースを投入しています。Komaxグループとして顧客とのproximity(近接)を大切にしていて、世界の各拠点での営業は現地語化を進めています。Komax Japanとしても、もっと日本のユーザーに寄り添って、日本市場への浸透性を高めていきたいと考えています。
またKomaxグループとしては自動車分野のシェアが高いので、それ以外の産業機械や通信設備などの分野にも力を入れていきます。また既にお伝えしているように、ワイヤーハーネス関連のラインアップを広げ、顧客の広いニーズに対応していく考えです。
――インタビューを終えて
新機種のMiraは ヨーロッパらしいカッコいいデザインですね。実際に目にするとパッと見ておしゃれなコーヒーメーカーのように感じました。Miraのように、これからどのような新製品が開発されてくるのか楽しみですね。皆さん温かい雰囲気で、癒されました。
ミゼレ社長、神崎谷担当部長ありがとうございました。
Komax Japan 株式会社 代表取締役 ミゼレー・テイムル、セールス&サービス担当部長 神崎谷 周平